税制メールマガジン 第80号   平成25年11月18日

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◆目次
1 はじめに
2 神野税制調査会会長代理からのメッセージ
3 税制をめぐる最近の動き
4 諸外国における税制について
5 編集後記

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1 はじめに

 今年もすでに11月となり、残すところ後少しとなりました。前回のメー
ルマガジン発行から少し間が空きましたが、みなさまに税制メールマガジ
ン第80号をお届けします。今回は、税制調査会で会長代理を務められて
いる神野直彦東京大学名誉教授からメッセージを寄稿いただきましたの
で、是非お読みください。

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2 神野税制調査会会長代理からのメッセージ 

~「良き租税制度」を求めて~

経済学の歴史学派の創始者とされるドイツの偉大な経済学者ロッシャー
は、「良い財政制度なくして、繁栄した国民経済なし」と唱えています。
このロッシャー名言を口真似をすると、「良い租税制度なくして、幸福な
国民社会なし」ということができると思います。
 税制調査会の使命は、「幸福な国民社会のための良き租税制度」をデザ
インすることだということができます。それは租税を巡って現実に生じて
いる諸問題に、問題解決的に対応することよりも、中長期な視点から「良
き租税制度」のヴィジョンを描いていくことが、税制調査会には要請され
ているからです。
 もちろん、「良き租税制度」といっても、それがア・プリオリに存在し
ているわけではありません。つまり、どんな時代にもどんな国でも妥当す
る理想的租税制度なぞ存在しているわけではないのです。というよりも、
租税制度は国民の共同意志決定という政治過程を通じて決定されますので
、国民の一人一人が「良き租税制度」とは、どんな租税制度かを考えて築
いていくしかありません。
 税制調査会の使命はこうした租税制度を決定していく政治過程のスタッ
フとして機能することにあります。租税と聞けば忌わしい存在と思われる
かもしれません。しかし、租税とは社会の共同の困難を解決するための共
同負担であることを忘れてはなりません。世界で最も影響力のある経済学
者の一人に数えられているジェフリー・サックスは、租税とは「良き社会」
において「良き市民」が支払う「文明の対価」だといっています。実際、
租税負担率の高い国は幸福度も高くなっていますし、租税負担率の低い国
は幸福度も低く、格差や貧困が溢れ出ているといっても言いすぎではあり
ません。
 私は税制調査会の活動を通して、国民の租税への理解が進んでいくこと
を願っています。「租税を理解する」とは、自己の人生との関連で租税を
位置づけることです。国民の一人一人がこうした意味で租税の理解を深め
ていければ、未来からの光に導かれて、「良き租税制度」が浮かびあがっ
てくると思っています。
 私は中里実税制調査会会長から会長代理を仰せつかりました。この税制
調査会では、当面は国際課税やマイナンバーという従来、本格的に取り上
げてきたとは言い難い課題に焦点を絞りながら、「良き租税制度」を構想
していくことになっています。こうした使命を果すために、会長をサポー
トし、精一杯の努力をしようと覚悟しています。

東京大学名誉教授
神野 直彦

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3 税制をめぐる最近の動き

(1)税制調査会の開催

■税制調査会
 10月8日に第3回の税制調査会が開催されました。「国際課税」と「マ
イナンバー」について、それぞれ第一線で活躍している浅川OECD租税委員
会議長と向井内閣官房審議官のプレゼンテーションが行われました。また、
これらの議題について、今後、「国際課税ディスカッショングループ」と
「マイナンバー・税務執行ディスカッショングループ」を開催して議論を
進めていくことが了承されました。

■国際課税ディスカッショングループ
 10月24日に第1回、11月14日に第2回の国際課税ディスカッショング
ループが開催されました。座長は、会長より、田近栄治委員が指名されま
した。委員や事務局からの報告に加えて、第1回の会議では、太田洋東京
大学大学院教授、マーク・ラムザイヤーハーバードロースクール教授、第
2回の会議では、佐藤英明慶應義塾大学大学院教授に出席いただきプレゼ
ンテーションが行われ、議論が行われました。

■マイナンバー・税務執行ディスカッショングループ
 11月8日に第1回のマイナンバー・税務執行ディスカッショングループ
が開催されました。座長は、会長より、神野直彦会長代理が指名されまし
た。第1回の会議では、委員や事務局からの報告に加えて、須藤修東京大
学大学院情報学環学環長からのプレゼンテーションが行われ、議論が行わ
れました。
(税制調査会HP)

http://www.cao.go.jp/zei-cho/

(2)消費税率及び地方消費税率の引上げとそれに伴う対応について(閣
議決定)
  10月1日、政府は、消費税率(国・地方)を、平成26年4月1日に5
%から8%へ引き上げることを確認しました。
 あわせて、消費税率の引上げによる反動減を緩和して景気の下振れリス
クに対応するとともに、その後の経済の成長力の底上げと好循環の実現を
図り持続的な経済成長につなげるため、経済政策パッケージを決定しまし
た。
(財務省HP消費税率及び地方消費税率の引上げとそれに伴う対応につい
て)

http://www.mof.go.jp/comprehensive_reform/shouhizei.htm

(3)消費税転嫁対策特別措置法の施行
 メルマガの第78号(6月配信)「消費税の円滑かつ適正な転嫁の確保の
ための消費税の転嫁を阻害する行為の是正等に関する特別措置法案」が成
立したことをご紹介しました。
 消費税率の引上げに際し、消費税の円滑かつ適正な転嫁を確保するため
の特別の措置を講じるものですが、10月1日に施行されました。また、こ
れに併せて、消費税の転嫁に関する相談を受け付ける消費税価格転嫁等総
合相談センターが開設されました。
(消費税価格転嫁等総合相談センターHP)

http://www.tenkasoudan.go.jp/

(4)第2回消費税グローバルフォーラム(VATGF)
 平成26年4月17日・18日、第2回消費税グローバルフォーラム(VA
TGF)が、東京において開催される予定です。
 本フォーラムは、OECD租税委員会の下に設置され、消費税に係る政
策の国際的な潮流や、国境を越える取引に関するガイドラインの策定等に
ついて議論を行うものです。第1回フォーラムは平成24年11月にパリに
て開催され、第2回が開催される平成26年は日本のOECD加盟50周年
に当たり、本フォーラムは50周年記念プロジェクトの一環になります。
(財務省HP第2回消費税グローバルフォーラム(VATGF)が東京で
開催されます)

http://www.mof.go.jp/tax_policy/summary/international/20131114vatgf.htm

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4 諸外国における税制について

~税の「力」~

 唐突に壮大な話で恐縮ですが、古今東西を問わずあらゆる共同体にとっ
て、税はその活動財源を確保するために欠かせないものです。しかし、国
民の皆様に「お金」という形で最も直接的にご負担を求めるものですから、
適切な制度・水準を維持しなければ、国民生活に甚大な影響を及ぼしてし
まいます。古くは律令制下の日本、税が払えず本籍地から逃げ出す「浮
浪・逃亡」があったとされ、新しくは現代フランス、富裕層増税に抗議し
て仏人俳優が国籍をロシアに移したとの報道がありました。理由も背景も
全く異なれ、税には個人の生活基盤をも変えさせるほどの影響力があると
いえましょう。

 一方で、古今東西の様々な国がそうした「税の力」をむしろ利用し、特
定の政策目的を達成するために活用してきました。古くは古代ローマ帝国、
少子化対策のために独身女性に税をかけたとの話を聞いたことがあります。
また、最近デンマークで肉や乳製品に「脂肪税」を課して国民の健康増進
を図った(ただし、昨年末に廃止)例については、本メルマガの75号でも
紹介させていただいたところです。

 上記のような特別な税に限らず、たとえば、諸外国の多くで導入されて
いる研究開発税制、公益法人等への寄附を促進する寄付金税制なども、政
策目的のために税を活用した例といえます。安倍内閣の「アベノミクス」
においても、たとえば、給与等の支給を増やした額に応じて法人税額控除
を認める「所得拡大促進税制」等を活用し、賃上げとそれによる自律的な
景気回復を目指しています。

 ところで、「政策目的のための税」といえば、知る人ぞ知るのが「トー
ビン税」です。ノーベル経済学賞受賞者のジェームズ・トービン氏が提唱
したもので、投機的な外国為替取引への課税を内容とすることから、「通
貨取引税」などとも呼ばれます。トービン税の目的は、為替取引に課税し
て利ざやを減らすことで投機的な取引を抑制し、金融市場を安定させよう
というものでした。

 実際の効果のほどや執行可能性への疑問もあり、今までにトービン税を
導入した国はありませんが、実は現在、EU(欧州連合)においてこれとよ
く似た税の導入が検討されています。トービン税と異なり為替取引には課
されないものの、株式・債券等の取引に課税する「金融取引税」です。金
融大国イギリス等の反対を受けながらも、賛成する仏独等11か国のみによ
る導入に向け、手続きが開始されました。

 この金融取引税ですが、賛成する11か国の間では、「いかに金融市場へ
の影響を少なくするか」という観点で議論が行われている様子です。市場
に影響を与えたくないならなぜ金融取引税を導入するかといえば、「金融
危機を引き起こした金融セクターに、財政再建の負担を求めるため」とい
うのが公式見解。一方トービン氏は「トービン税にとって税収は副産物」
と述べているそうで、市場に影響を与えることを目的とするトービン税と、
影響を最小化しつつ財源確保を目的とする金融取引税とは、よく似た兄弟
のような税でありながら、それぞれ全く真逆の目的意識に基づいていると
いえましょう。

 財務省に入省して1年半、毎日が勉強の日々ですが、ことごとに税の奥
深さとその「力」の大きさを実感します。また、古代から途切れなく存在
し続けているにもかかわらず、金融取引税の例のように、時勢を反映して
今なお動き続けているのが税制でもあります。皆さんもぜひ、財務省ホー
ムページ等をご参照いただきつつ、税の古今東西に思いを馳せられてはい
かがでしょうか。

                           主税局調査課
                            関口 雄介

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